「Alumni Voice」卒塾生が語る、私の原点
Alumni 02
板尾健司さん
(物理学者/人類学者)
Kenji Itao
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競い合うからこそ、 自分も、集団も、 一つ先へ進める。

小学生のころの『なぜだろう』が、 今の自分の出発点です 小学生のころの『なぜだろう』が、 今の自分の出発点です

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——現在の仕事について教えてください
理化学研究所の研究員として、数理モデルを用いた人類史の研究に取り組んでいます。人類の歴史上には、王国のありかたや集団間の婚姻関係などがよく似た社会が存在します。時代や地域が全く異なるのに、なぜか似ている社会が存在するということは、そこには普遍的な仕組みがあるのではないか。社会が生まれるプロセスを、プログラミングを活用して数式に落とし込み、その仕組みを解明したいと考えています。

先生が薦めてくれた本が、
ぼくの“ワクワク”を加速させた。

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——研究の原点になったのは?
きっかけは、小学生のころに海外で過ごした体験でした。多様な民族の人が暮らす国で、宗教や文化の違いを体験し、子ども心に「なんだか不思議だな」と感じました。以来ずっと関心を持っていたのですが、大学受験のために早稲田アカデミーに通っていたとき、それを知った先生方が生物学や文化人類学の本を貸してくださったんです。それらの本を通して、構造主義という考え方や、動物の行動は数学的に説明できるけど人間の行動は複雑だ、ということを知りました。高校生のぼくにとっては衝撃的な内容で、「なぜなのか」と考える時間が楽しくて仕方なかった。それが「歴史の法則を解き明かしたい」という研究の原点になっていると思います。

『文章には読み方がある』。 世界は一気に広がりました 『文章には読み方がある』。 世界は一気に広がりました

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——今でも覚えている授業はありますか?
中学生のときに受けた国語の授業ですね。初めて「文章の論理的な読み方」を教えてもらったんです。逆接語の後に重要なポイントが来るとか、対比構造を意識するといった読み方を教えていただきました。そうすると、内容が面白いように頭に入ってくるようになって、読書量が格段に増えました。

――先生との関わりで印象に残っていることは?
本を薦めてくれた先生方のように、受験の枠にとらわれず、ぼくの興味や関心を応援してくれたことがとても印象深いです。「広い視座で学びたい」という気持ちを理解して、背中を押してもらったように思います。

ぼくの受験には、
「合格」を超えた価値があった。

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——授業の雰囲気はどうでしたか?
ぼくが早稲田アカデミーを好きだった理由の一つなんですが、とにかく授業が面白かった。難しい内容も、面白く、わかりやすく伝えてくれる先生を「かっこいいな」と思っていました。「研究」という仕事でも、思考力や実証力と同じくらい、「伝える力」が重要だと考えています。研究内容がどれほど有益でも、それを誰かに伝えられなければ研究そのものの価値が半減してしまうかもしれない。相手に伝えるための「話の組み立て方」を、先生方から多く学んだと感じています。

僕を成長させたのは、 競い合える環境です 僕を成長させたのは、 競い合える環境です

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——早稲田アカデミーでの経験で、今につながっていることは?
早稲田アカデミーには、「頑張る人」が集まっている。仲間たちと競い合いながら一生懸命自分を高めていく経験ができたこと、そしてその過程を「楽しい」と感じる自分に気付いたことはとても大きいと思います。授業の合間には、仲間と問題を解き合うこともありました。どんどん悩んだり議論したりして、お互い磨きをかけていく……そうして仲間と高め合った経験が、今の研究姿勢にも生きていると感じます。

「頑張れば勝てる」
「頑張らなければ負ける」
その環境がぼくを熱くした。

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——忘れられないライバルはいますか?
中学生のとき、夏期合宿で出会ったライバルでしょうか。先生が問題を出し、解けた人から手を挙げるという授業スタイルだったため、手を挙げるのが早い彼のことが印象に残っていました。競争によって高めあう――。皆が本気だからこそ、ぼくも本気になれました。先日講演会をしたとき、聴衆のなかに見覚えのある顔が。10年以上会っていなかったその彼が、SNSで私のことを知って応援に来てくれたんです。「あのときのライバルが頑張っているな、と思って来たんだよ」という言葉がうれしかったですね。

『やればできる』。 だからこそ思う、『自分がやらなきゃ誰がやる』 『やればできる』。 だからこそ思う、 『自分がやらなきゃ誰がやる』

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——挑戦への原動力は、どこで育まれましたか?
早稲田アカデミーで仲間と競い合い、先生に背中を押していただいた経験が、「やればできる」「必ずやり遂げる」という姿勢を育ててくれたと思います。研究はすぐに成果が出るものではありません。ときには「この道は正しいのか」「本当に意味があるのか」と不安を感じることもありますが、そんなときには「自分がやらなきゃ誰がやる」と不安を振り切り、前を向きます。信じたものに向かって突き進む姿勢を支えてくれているのは、仲間との切磋琢磨を通して得た成功体験ですね。

——今の研究を通じて、板尾さんが目指していることは?
「社会の仕組みを解明する」ことは、未来を考えるうえで大きな意味を持つと考えています。今取り組んでいる課題の一つに「少子化」がありますが、その仕組みに基づいて未来を予測することで、課題解決のためのヒントがつかめるはずです。何かを考える、あるいは何かを予測するときには「そこにいかなる仕組みがあるのか考える」――そんな切り口を広く発信していきたいと考えています。

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Profile

板尾 健司(物理学者/人類学者)

理化学研究所 脳神経科学研究センター基礎科学特別研究員。1996年生まれ。2024年東京大学 総合文化研究科より博士(学術)取得。専門は複雑系科学と統計物理学を応用した文化進化論。2021年東京大学総長賞、2024年日本学術振興会育志賞受賞。